2012年9月30日日曜日

【拡張】


 「拡張」という概念について考えます。

 「拡張」とは、「抽象」の度合いが拡大することです。

 分詞構文を例にして説明します。

 現在分詞も過去分詞も「抽象」を表わしていますが、分詞構文での現在分詞と過去分詞は「さらなる抽象」(抽象の度合いの拡大)を表わしています。

 そして、拡張は「機能」の拡大を必ずともないます。分詞構文での現在分詞・過去分詞は特に接続詞という機能が追加されていますが、これは、これまでの現在分詞・過去分詞が語句レベルの機能だったのに対して、分詞構文では接続詞という文レベルの機能へと、その勢力範囲を拡大させたことを意味しています。


   「拡張」: 「抽象」の度合いが拡大され、「機能」の拡大をともなうこと

   例:分詞構文

   これまでの現在分詞・過去分詞: 語句レベルの機能 

   ↓ (拡張)

   分詞構文での現在分詞・過去分詞: 文レベルの機能 


 他の代表的な例として、不定詞の「to」があります。もともと前置詞であったtoが「拡張」されその機能を拡大させた結果、「何でもあり」のto不定詞となったのです。

 このように、「拡張」という概念は他の文法分野でも頻繁に目にすることができます。


【分詞構文】


 受験英語でおなじみの「分詞構文」の基本形について考えます。


   Waiting for him,  I met her. (現在分詞)

   Written in plain English,  this book is easy to read. (過去分詞)


 分詞で構成された文ですから分詞本来の機能がそのまま利用されている文かというとそうではありません。

 分詞本来の機能だけでなく、「拡張」された機能が追加されていることが分詞構文のポイントです。


   1.分詞構文での分詞の本来の機能

     現在分詞: 動詞的用法のみ (~している)

     過去分詞: 動詞的用法のみ (受動態・完了形)(~された・~した)


   2.分詞構文での分詞の拡張された機能

     現在分詞: 接続詞
 
             主語 (主節と同じ場合)

             be動詞 (例外あり)

     過去分詞: 接続詞

             主語 (主節と同じ場合)

             be動詞 (例外あり)



 つまり、分詞構文での分詞の機能は、「1+2」で構成されているのです。


   Waiting for him,  I met her.

   =When I was waiting for him, I met her.

   
   Written in plain English,  this book is easy to read.

   = As this book is written in plain English,  this book is easy to read.


 ところで、分詞の拡張された機能のうちの接続詞ですが、どの接続詞の機能が追加されているのか(どの接続詞が省略されているのか)はあくまで文脈で判断されます。したがって、複数の接続詞の候補がある場合もありますが(例:~なので: as, because)、文脈にさえ即していれば「どれでもいい」のです。そこが分詞構文の醍醐味でもあります。


   分詞構文での分詞の拡張された機能

   接続詞: when, while, as, because, but, though, although, if など

   *文脈に即して決まる


 次に、「拡張」という概念について考えます。


2012年9月27日木曜日

【仮定法】2


 仮定法未来について考えます。

 
    未来の事柄に対する実現可能性の低い想像 (仮定法未来)(抽象)

    1. If it should rain tomorrow, I would stay at home.

     「もし明日雨が降れば、私は家にいるつもりだ。」

     (降水確率30%)(家にいる確率30%)

     おそらく家にいないだろうと話し手は想像している。


    2. If it were to rain tomorrow,  I would stay at home.

         「もし明日雨が降れば、私は家にいるつもりだ。」
   
         (降水確率0%~10%)(家にいる確率0%~10%)

     間違いなく家にいないだろうと話し手は想像している。


 上記が仮定法未来の基本形です。1は未来の事柄の可能性が低いことを想像し、2は未来の事柄の可能性がほぼ無いことを想像しています。まさに抽象の世界(あっちの世界)を表しています。次に形に注目してみましょう。


   1. If ・・・「助動詞過去形*+動詞の原形」・・・, ・・・「助動詞の過去形+動詞の原形」・・・.

   2. If ・・・「were+to不定詞+動詞の原形」・・・,・・・「助動詞の過去形+動詞の原形」・・・

        *=should


 2のほうが1よりも「抽象度」が高いのは、「何でもあり」の不定詞が使われているためです。抽象度が高いということはそれだけますます現実から離れて「あっちの世界」へ行ってしまっていることを表しています。

 最後に、抽象の度合いと形との関係を確認します。


  1.  If it rains tomorrow, I will stay at home.  

    (降水確率60%)(家にいる確率60%)
  
   2.  If it rains tomorrow, I would stay at home. 

    (降水確率50%)(家にいる確率50%)

   3.  If it should rain tomorrow, I will stay at home.
  
    (降水確率40%)(家にいる確率40%)

   4.  If it should rain tomorrow, I would stay at home.

       (降水確率30%)(家にいる確率30%)

   5.  If it were to rain tomorrow, I would stay at home.

    (降水確率0%~10%)(家にいる確率0%~10%)

    *降水確率・家にいる確率はあくまで目安です。


 下にいくほどだんだん抽象の度合いが高く、可能性が低いことの想像を表わす形となっています。


2012年9月23日日曜日

「こっちの世界」と「あっちの世界」


 「具体」とは何か、「抽象」とは何か。

 さらに別の視点で考えてみます。


  「具体」: 「こっちの世界」

         現実世界(リアルな空間)

         目で見る世界


  「抽象」: 「あっちの世界」

         想像世界(バーチャルな空間)

         頭で考える世界


 「具体」と「抽象」をそれぞれ別の概念でとらえてみました。

 「こっちの世界」とは、目の前の現実の世界です。現に実在するもの、客観的事実、主観的事実で構成される世界です。そして、目の前の世界ですから「近い」対象です。これをいままで「具体」と表現してきました。

 「あっちの世界」とは、頭で想像する世界で、目でみることはできません。妄想、虚構、理想、イメージで構成される世界です。そして、目でみることはできず頭で想像する世界ですから現実から「遠い」対象です。これをいままで「抽象」と表現してきました。

 そして一番の重要な点は、


  英語は「こっちの世界」と「あっちの世界」の事柄を「形」で「区別」して表わす


 という特徴をもっているということです。


2012年9月16日日曜日

【仮定法】1


 仮定法について考えます。

 仮定法とは、話し手の比較的実現可能性が低い想像を表す手法です。
 
 ということは仮定法はもちろん「抽象」を表しますが、その抽象の度合いがかなり高いことが特徴です。 そのため高い抽象度を表すことができる形が採用されています。それは次の3点です。

   
   ① 原則、「if」(もしも~ならば)という接続詞が使われる


 ただし、「if」だけでは事実(具体)としてとらえた仮定も表すこともできるため、抽象を表すためにはもう一つの形がセットで採用しています。

    
   ② 「現在」の事柄の実現可能性の低い想像を表すために「過去形」が使われる


 過去形は「抽象」を表わしますが、本来現在形であるべきところで過去形をあえて使用することによって、「現在の事実と想像との距離の大きさ」、すなわち、想像の度合いが高い(抽象度が高い)ことが表現できるのです。丁寧表現等でも利用されていますね。

 また、この過去形は「~でした」という過去を表すのではなく、あくまで「現実と想像との距離の大きさ」を表すので、訳し方は現在形と同じ(~です)となります。

   
   ③ 「過去」の事柄の実現可能性の低い想像を表すために「過去完了形」が使われる

 
 3つ目は、「現在」の事柄の実現可能性の低い想像を表すために「過去形」が使われているのと同じ論理で、「過去」の事柄の実現可能性の低い想像を表すために「過去完了形」が使われている、ということです。つまり、時制をひとつ過去の方向へずらすことで想像の度合いが高い(抽象度が高い)ことを表しているのです。

 仮定法の基本形をまとめると以下のようになります。


  1.現在の事柄に対する実現可能性の低い想像 (仮定法過去)(抽象)

    If ・・・「過去形」・・・、 ・・・「助動詞の過去形+動詞の原形」・・・.

    (もし今~ならば、~するだろうに)(実際には~できない)

    If I *were you, I wouldn’t do such a thing.   (*wasも可能)

         If I had money, I could buy the watch.


  2.過去の事柄に対する実現可能性の低い想像 (仮定法過去完了)(抽象)

    If ・・・ 「had + 過去形」・・・、 ・・・「助動詞の過去形 +had + 過去分詞」・・・.

    (もしあのとき~ならば、~しただろうに)(実際には~できなかった)

         If I had money, I could have bought the watch.



 次に、仮定法未来について見ていきます。 


【具体と抽象】


 ここで一度、「具体」・「抽象」とは何であるかを整理したいと思います。


  具体: (意味) 事実を表す 

       (形) 動詞: 現在形(能動態)

           名詞: 可算・冠詞あり


  抽象: (意味) 想像を表す 

       (形) 動詞: 過去形・完了形・進行形・仮定法・原形・受動態

           名詞: 不可算・冠詞なし

           その他: 不定詞・動名詞・助動詞・形容詞・副詞等


 ただし、能動態の場合でも、過去形の能動態、完了形の能動態、進行形の能動態等は「抽象」を表します。

 ここで、具体と抽象を比較すると、以下のようになります。

 
   ・抽象のほうが具体に比べ表現の種類が圧倒的に多い。

   ・抽象のほうが具体に比べ表現の形が複雑になっている。


 つまり、英語はいろいろな「抽象思考」を表現したがる言語であるといえます。話し手の頭の中で想像した事柄を、目の前の具体的な事柄と区別して、それをいろいろな形で表わそうとする特徴が英語にはあります。

 よく考えてみると、言葉で表わされる事柄は、目の前の事実の描写(具体)よりも、想像という思考(抽象)のほうが圧倒的に多いと思われます。昨日何をした、明日何をする、あれは~だろうなどはすべて話し手の想像という抽象思考です。

 また、情報量という点から考えてみても、目の前の事実の情報量よりも、話し手の想像の情報量のほうが圧倒的に多いと思われます。想像は何でもありですから。

 さらに、時間軸で考えてみても、1秒、2秒、と時計が進むのに合わせて生じる出来事や、毎週、毎月、毎年などと周期的に繰りかえされる出来事は「具体」で、それ以外の時間での出来事は「抽象」となりますが、時間の範囲も抽象のほうが圧倒的に多いと思われます。

 その結果、英語は抽象のほうが具体に比べ表現の種類が圧倒的に多く、また、それらを区別して表わそうとするために、表現の形が複雑になっているのです。


2012年9月2日日曜日

【不定詞】3


 不定詞は「定まらない品詞」という命名ですが、なぜ命名者にとって定まらないように見えたのでしょうか?

 それはやはり、不定詞がいろんな品詞に姿をかえるからでしょう。ある時は名詞、ある時は形容詞、そして、ある時は副詞など、あたかも「何でもあり」のように見えます。

 ところが、不定詞はまさにこの「何でもあり」なのです。理由は、不定詞は「抽象度が高い」からです。

 では、「不定詞の抽象度の高さ」とは何でしょうか?現在形と比較してみましょう。


    動詞の現在形
  
         I play basketball every day.       (~する)


         不定詞+動詞の原形

         To play basketball is fun for me.     (~すること)(名詞的用法)

         I have a promise to play basketball.    (~するための)(形容詞的用法)

         I went to the park to play basketball.   (~するために)(副詞的用法)

         I will (to) play basketball tomorrow.  (~する)(原形不定詞)(動詞的用法)


 現在形(play)と不定詞(to play)の違いについて以下の点があげられます・

     
     ・位置 :     動詞 < 不定詞    
     ・機能 :     動詞 < 不定詞
     ・意味 :     動詞 < 不定詞

     *「抽象」の度合い=「拡張」の度合い


 位置とは置くことのできる場所です。現在形は主語の後だけですが、不定詞はまさに「何でもあり」です。また、置く場所が変われば、機能(品詞)や意味もかわってきますので、この3つは密接に関連しています。「抽象」度が高いとは、「拡張」されていることを表しています。動詞よりも、不定詞は「位置」「機能」「意味」が拡張されています。

 不定詞には「名詞的用法」・「形容詞的用法」・「副詞的用法」・「動詞的用法」がありますが、これは不定詞が「抽象」を表しており、動詞に比べ、位置・機能・意味が拡張された結果、備わった用法である、と考えることができます。

 同様に、不定詞は「目的」・「原因、理由」・「結果」・「程度」を表しますが、これも不定詞が「抽象」を表しており、動詞に比べ、位置・機能・意味が拡張された結果、備わった意味である、と考えることができます。

 では、不定詞はなぜこれほどの「拡張された抽象度」を獲得できたのでしょうか?それは、動詞の原形とto不定詞ともに抽象を表しますが、その動詞の原形が「to」と結びつくことのよって「独立した句」を形成し、その独立性のため、いろいろな位置をとることができ、その結果いろいろな機能(品詞)や意味を獲得できた、と考えられます。


   不定詞(to) + 動詞の原形 = 「独立抽象句」 → 「何でもあり」


 ちなみに、不定詞の名詞的用法の場合、この名詞は「抽象」としてとらえられていますから、不可算・冠詞なし、となります。(ただし、話し手が、それを「具体」的にとらえている場合は、可算・冠詞あり とすることもできますが、ほとんどないでしょう。)  

 以上のように、不定詞は「抽象」の度合いが高い、ということは、話し手の「想像」のおもむくまま、不定詞を使用することができる、ということです。ですから、この「なんでもあり」の不定詞は、文脈に即して柔軟に使用し、意味づけ行うことができるのです。