2012年11月25日日曜日

【英語本】




 向山淳子・向山貴彦・たかしまてつを 『ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本』 幻冬舎、2001年

 この本は英語の「構造」のもっともポイントとなる部分をわかりやすく説明しています。

 また、前置詞のイメージなどの説明もあります。

 この本とあわせて大西先生の前置詞のイメージの本を読むとより前置詞のイメージがふくらむのではないかと思われます。

 a と the の説明で、a は上からのスポットライトが1つで、the は下からのスポットライトがいくつもあるというのはなるほどと思いました。

 絵と物語もあり、英語アレルギーがある方におすすめの本です。

 Big Fat Cat の物語はいいストーリーだと思います。


2012年11月24日土曜日

【英語本】




 池上嘉彦 『英語の感覚・日本語の感覚 <ことばの意味>のしくみ』 日本放送出版協会、2006年

 この本は認知言語学的な視点から書かれています。

 非常に興味深い内容が多く、当ブログの視点にとっても非常に参考となることが多く含まれています。

 英語をある程度学んで、これまでとは違った視点で英語をとらえてみたいという方におすすめの本だと思います。


【なぜ最上級には the がつくのか】


 なぜ最上級には the がつくのでしょうか?

 これはなぜ最上級には a がつかないのかと同じ問題です。

 ですから【a と the の違い】のところで説明した内容が答えとなります。

 では説明します。 
 
 まず、比較級や最上級とは程度を比べることです。程度は形容詞と副詞で表わしますから、比較級や最上級は形容詞と副詞で表わすことになります。

 また、比較級や最上級は話し手の頭の中で特定の物差しや基準で何かと何かの程度を比べることです。これは頭の中で考えるあっちの世界でのみ成り立つため「抽象」を表します。

 ちなみに、頭の中で比較できないものには比較級や最上級はありません。例えば、absolute(絶対的な)、complete(完全な)などがそうです。


    形容詞・副詞 : 程度を表わす

               「抽象」を表わす


    比較級 : 頭の中で2つの事柄の程度を比べる

           「抽象」を表わす


    最上級 : 頭の中で3つ以上の事柄の程度を比べる

           「抽象」を表わす       


 では、なぜ最上級には「the」がつくのでしょうか?


        He is as tall as I.  (原級)

        He is taller than I.  (比較級)

        He is the tallest in his class. (最上級)


 最上級の the があたかも形容詞 tallest に対してついているように見えますがそうではありません。上記の例文を以下のようにするとわかりやすくなります。


        He is as tall a boy as I.  (原級)

        He is a taller boy than I.  (比較級)

        He is the tallest boy in his class. (最上級)


 通常、boyのような名詞は省略されてしまうのであたかも最上級の形容詞に対してtheがついているように見えますが、あくまで the は名詞 boy に対してついているのです。

 最上級では the boy 、原級・比較級では a boy となっています。この違い理由は【a と the の違い】のところで説明した内容で答えることがでます。

  
    a pen : a は「具体」を表わす  

           → 「話し手」と「聞き手」が共通のpen を想像することができない

        the pen : the は「抽象」を表わす

                          → 「話し手」と「聞き手」が共通のpen を想像することができる


 最上級が表わす「一番のもの」はある特定のものを表わしています。この特定のものとはこの場合は「ああ、あの背の高い~君だよね」という「共通したイメージ」を「想像することがができる」ものです。

 the はもともと that から拡張された語ですから、頭の中で話し手と聞き手が「あの~君だよね」と共通して想像できる対象に対して使用できるのです。

 一方、a は単に名詞が「具体的」に1つあるということを示す単語です。

 以上がなぜ最上級には the がつくのかの答えとなります。


    なぜ最上級には a ではなく the が使われるのか

    → 最上級は話し手と聞き手が頭の中で共通して想像できる対象だから


 ポイントは、a は「具体」を表わしているのに対して、the は 「抽象」を表わしているという点です。

 興味深いのは、名詞が省略された場合、形容詞の最上級では the は残るのに、形容詞の比較級では a は残らないことです。それだけ the が a よりも語の力が強いということなのかもしれません。

 ちなみに、通常 the がつくのは形容詞の最上級だけで副詞の最上級にはつきません。理由は簡単で副詞の後には名詞はこないからです。(例外はあります。)

 最後に、比較級に対しても the がつくことがあります。


        He is the taller of the two.  


 of the twoがついた比較級には the がつきます。考え方は最上級と同じです。


        He is the taller boy of the two boys.


2012年11月19日月曜日

【a と the の違い】


 a と the について考えます。


            This is a pen.  (不定冠詞 + 可算名詞)

            This is the pen.  (定冠詞 + 可算名詞)


 a と the の違いは何でしょうか?

 結論として当ブログでは次のように考えます。


         a pen : a は「具体」を表わす  

           → 「話し手」と「聞き手」が共通のpen を想像することができない

         the pen : the は「抽象」を表わす
   
            → 「話し手」と「聞き手」が共通のpen を想像することができる


 では説明します。  

 まず the はなぜ「抽象」を表わすのでしょうか?


              a      >     the     (具体の度合い)

              a      <     the     (抽象の度合い)

 
 それは the の語源を知るとわかります。

 池上嘉彦 『英語の感覚・日本語の感覚 <ことばの意味>のしくみ』 日本放送出版会、2006年によると以下のような説明があります。

   

 接続詞の that と定冠詞 the は、いずれももともと指示代名詞の that に由来するもので、起源は同じである。つまり、節を導く接続詞の that は句を導く定冠詞の the と同じ働きをしているというわけである。(P90)


 つまり the の語源は that なのです。


             指示代名詞 that 「具体」

           → 接続詞 that (節を導く) 「抽象」

           → 定冠詞 the   (句を導く)   「抽象」


 指示代名詞 that の機能が「拡張」された結果、接続詞 that と定冠詞の the となったのです。

 ではなぜ拡張された接続詞 that や定冠詞 the は「抽象」を表わすのしょうか?

 【関係代名詞】2のところで説明した内容を引用します。

 
    「具体」: 「こっちの世界」

           現実世界(リアルな空間)

           目で見る世界

                     → this, it, that, they, these, those (指示代名詞)


     「抽象」: 「あっちの世界」

           想像世界(バーチャルな空間)

           頭で考える世界

           → that  (接続詞)

           → the  (定冠詞)


 指示代名詞はもともと比較的近くにあるものを指で差し示して、「これ」「それ」「あれ」「それら」「これら」「あれら」を意味する単語です。これらは「具体」的なものを指し示しています。they, these, thoseなどの複数形があることからも数えることができる(可算である)「具体」を表わしていることがわかります。

 一方、これらの指示代名詞の中で唯一、「あれ」(that)だけは、現実と距離感がある「あっちの世界」(「抽象」)も表すことができます。


   ・「そうそう、あのことだけどねえ。」         (自然)

   ・「そうそう、このことだけどねえ。」  △ (ちょっと不自然)


 想い出したように別の話題をふる時、「あのこと」と表現するほうが自然に感じられると思います。そしてこの場合の「あれ」(that)は遠くの「頭で考える世界」(「抽象」)を指し示していると思われます。(「あのことだけどねえ」と言う際、目はどこか遠く上の方を向いている感じがするのではないでしょうか。)

 以上が the が「抽象」を表わすことができる理由です。

 最後に、a pen は「新出」を表わし、the pen は「既出」を表わすとよく言われますが、これは次のように説明できます。


         a pen : a は「具体」を表わす  

           → 「話し手」と「聞き手」が共通のpen を想像することができない

           → 「新出」を表わす

         the pen : the は「抽象」を表わす
   
            → 「話し手」と「聞き手」が共通のpen を想像することができる

            → 「既出」を表わす


 話し手は pen の想像を頭ですることができるの対して聞き手はそれを想像できない場合には「a pen」となり、話し手も聞き手も両方 pen の共通した想像ができる場合には「the pen」となります。

 the は「その」と訳すことばあると思いますが、正しい解釈は「あの」です。話し手と聞き手が頭の中で同じもの想像することができていることを表わしています。

 最後に補足です。

 pen を含めた名詞句の相対的な具体度・抽象度は以下のようになります。


      a pen   >   the pen    >   pen  (抽象名詞の場合)   : 「具体」の度合い

      a pen   <   the pen    <   pen  (抽象名詞の場合)   : 「抽象」の度合い


 以上が a と the の違いについての「具体」と「抽象」による解釈となります。


2012年11月18日日曜日

【受動態における「英語の視点」】




 大西泰斗 『英文法をこわす 感覚による再構築』 日本放送出版協会、2003年

 受動態における「英語の視点」についてこの本から取り上げます。


      I was surprised to hear the news.   

      「私はそのニュースを聞いて驚いた。」

 英語では感情の述べる際、be surprised などすべて受動態の形を取る。この「感情は外側の原因から引き起こされる」という強い傾向をもつ英語ということばにとって、「感情-原因」は非常に濃密な関係にある。こうした事情が、感情と to のコンビネーションにより強固な結びつきを与えているにちがいない。(P46)(傍線筆者)


 「私は驚く」を表現する際、英語と日本語では次のように違った表現をとります。


     英語 :  受動態  (私は驚かされた。)

            感情は外側の原因から引き起こされる


     日本語 :  能動態  (私は驚いた。)

              感情は内側から自然と起こる


 この違いはなぜ起るのでしょうか?

 それは「英語の視点」と「日本語の視点」が違うからであると考えられます。


   英語の視点 : 「鳥瞰図的視点」 

              → 主観的視点 + 客観的視点

              → 「具体」だけでなく「抽象」もみえる

              → 「具体」と「抽象」の区別


   日本語の視点 : 「埋没的視点」 

              → 主観的視点のみ

              → 目の前の「具体」しかみえていない


 英語の「鳥瞰図的視点」とは鳥の視点です。上空から地上の全体像を見渡すような視点です。

 受動態とは能動態の主語と目的語を入れかえた表現ですが、これは目の前の事態から一歩引いて距離をとった「客観的」な視点です。つまり「私は驚いた」と言う際、英語は「私は驚かされた」と事態を「客観的」に見ているのです。

 一方、日本語の「埋没的視点」とは、例えば、電車の車掌さんの視点を思い浮かべてみてください。電車の進行方向の一番前の車両に乗っている車掌さんの視点は、自分の前方は見えていますが、自分の後ろだけでなく自分自身さえも見えていません。これは目の前のものしか見えていないという視点です。つまり「私は驚いた」と言う際、日本語は「私は驚いた」と事態を「主観的」に見ているのです。

 このことは【英語の視点と日本語の視点】のところで述べた内容です。

 ではなぜ「私は驚いた」と言う際、英語は「私は驚かされた」と事態を「客観的」に見ているのでしょうか?

 それは英語が「因果関係」という「抽象」を見ているからです。

 大西先生が指摘されているように、「感情は外側の原因から引き起こされる」ことを英語の話し手は見ています。そしてこの「因果関係」は目で見ることができる具体的なものではありません。話し手の頭の中で想像することによってはじめて見えてくる「抽象的」なものです。

 そしてこの「抽象」である「因果関係」はこの場合、「私の驚きという感情は外側のニュースという原因から引き起こされた」ため、「~される」という「受動態」を使っているのです。
   

   受動態: ~される   客観的視点  

                  因果関係という「抽象」が見えている

                  感情を表現する際の「英語の視点」


 一方、日本語の話し手には「因果関係」という「抽象」は見えておらず、「驚いた」という目に見える「具体的」な事態だけを見ています。「私は驚いた」と言う際、日本語が「私は驚いた」と事態を「主観的」に見て「能動態」を使うのはこのためです。

   
   能動態: ~する   主観的視点  

                 目に見える「具体」だけをみている

                 感情を表現する際の「日本語の視点」


 以上のことからも、英語がいかに「具体」と「抽象」を形で区別しているかがわかります。


2012年11月11日日曜日

【語の「力」】


 語の「力」について考えます。

 【語順をうみだす語の「力」】のところで取り上げた「語の力」という概念は、【自動詞と他動詞】のところで取り上げた「拡張」と同じものです。


    第一文型 : 完全自動詞 「拡張なし」

    ↓

    第二文型 : 不完全他動詞 「1次拡張」 (1次抽象化)

    ↓

    第三文型 : 完全他動詞 「1次拡張」 (1次抽象化)

    ↓

    第四文型 : 完全他動詞 「2次拡張」 (2次抽象化)

    ↓

    第五文型 : 不完全他動詞 「2次拡張」 (2次抽象化)


 文型は動詞の「拡張」の度合いを表しており、動詞は「拡張」という「抽象化」の方向へ向かう傾向がある、ということを考えました。

 「拡張」という概念をまとめると以下のようになります。


     「拡張」

     ・語の「機能」の拡張  (例: 分詞→分詞構文)

     ・語の「力」の拡張  (例: 動詞のとる文型・第一文型→第三文型)


 この語の「力」とは「影響力」や「後ろに引きつける力」のことです。

 前回取り上げた something good は something が「拡張」され good への影響力や後ろに引きつける力がUPしたものです。

 この「拡張」では目に見えない力が語に作用しているわけですが、語に力を与えている最終決定者は「話し手」であると考えられます。なぜなら話し手がその力の作用を意図して発話しているからです。

 つまり、語に「力」を与えているのは「話し手」の頭の中での「想像」であり、したがって「拡張」とは「抽象化」であると考えることができます。


     「拡張」

     ・語の「機能」の拡張  

     ・語の「力」の拡張

     →話し手が作用させている「抽象化」


【語順をつくりだす語の「力」】




 英語の読み方は「一方通行」です。

 ここでは「語順」について考えます。


    1. good things

       2. something good


両方とも「良いもの」という意味でほぼ同じですが、「語順」が異なります。

  
    1. 形容詞 + 名詞

    2. 名詞 + 形容詞


 2のように一見不自然な語順となるのはなぜなのでしょうか?

 このことを「語の力」という点から考えたいと思います。


    1. good → things   

       good が things へ「力」を及ぼしている

       good が things を引き連れている

       2. something → good

       something が good へ「力」を及ぼしている

       something が good を引き連れている


 したがって、なぜ2のように一見不自然な語順となるのかは、something の「力」ほうが good よりも強いからと考えられます。


    「語」の「力」の強さ

    1. good > things  

       2. something > good


 なぜ2では something のほうが good よりも「力」が強いのでしょうか。これは「何か」というふうにもったいぶって取り上げれているものに話し手の注意が向いているためであると考えられます。

 つまり語の「力」は語自体にあらかじめあるだけでなく、話し手が決めている面もあるということです。

 以上のポイントをまとめると、英語の読み方は「一方通行」であり、sometihng good は「something が good を引き連れている」と読むということです。

 従来の受験英語では「good が something を後ろから修飾している」(後置修飾)と説明していますが、それよりも英語の流れそのままに「something が前から good を引き連れている」と解釈するほうが自然です。

 この「一方通行」の感覚、「語」の「力」の感覚を身につけると、英文読解力が飛躍的に向上するると考えています。


【一方通行】




 (「一方通行」をあらわす道路標識)

 英語の読み方について考えます。

 英語の流れは向かって左から右への「一方通行」です。

 これは当然のことで、英語は「音」で発話されるからです。

 当ブログでは、このことを「拡張」という抽象化を表す概念で考えていきたいと思います。

2012年11月10日土曜日

【三単現S と ISのS】


           He plays tennis.    (三単現の「S」)

           He is a tennis player.   (ISの「S」)


 三人称単数現在(三単現)の「S」と、be動詞「IS」の「S」は同じ条件で使用されます。

 これは偶然なのでしょうか?

 当ブログでは三単現のSは「具体」を表すという仮説をたてています。

 それを前提とすると、be動詞のISのSも「具体」を表していると考えられます。


     主語が三人称単数現在の時

     → 一般動詞には三単現の「S」がつく

     → be動詞には「IS」が使われる

     → 「S」は「具体」を表す記号ではないか(仮説)


 この仮説については検証をしていきたいと思います。


【命令文】


 命令文について考えます。


    Open the window.


 ポイントは2つです。


    1.なぜ命令文には「動詞の原形」が使われているのか

    2.なぜ命令文には「主語」(YOU)が省略されているのか


 まず1から説明します。
 
 「動詞の原形」は、動詞の現在形(三単現のSがつかないもの)と同じ形をしていますが、表している内容は現在形とはまったく異なります。


    動詞の現在形: 「具体」を表す

               目の前の現実を表す

    動詞の原形: 「抽象」を表す

              頭の中の想像を表す


 この違いを例文で説明します。


    ア.You open the window everyday.    (動詞の現在形)

    イ.Open the window everyday. (動詞の原形)


 アは「あなたは毎日その窓を開ける」という習慣をもっているという意味です。この場合の習慣とは定期的に繰り返される「事実」のことです。このように現在形は目の前にある現実、つまり「具体」を表しています。

 イは「あなたは毎日その窓を開ける」ということを話し手が頭の中で想像し、まだ現実となっていないその想像を実現化させるために、「毎日その窓を開けなさい」と命令しているという意味です。このように動詞の原形は話し手の頭の中の想像、つまり「抽象」を表しています。


    1.なぜ命令文に「動詞の原形」が使われているのか

→命令文はまだ現実となっていない話し手の想像を実現化させるための発話であり、そのため話し手の「想像」を表すことができる(「抽象」を表すことができる)「動詞の原形」を利用しているため。


 次に2の「なぜ命令文には「主語」(YOU)が省略されているのか」です。

 
    ア. You open the window.

    イ.  Open the window.


 まず、命令文のすべてが主語(YOU)を省略しているわけではありません。アのような命令文もあります。

 ではなぜ主語(YOU)が省略された命令文ができたのでしょうか。

 それはアはイに比べかなり高圧的な響きとなってしまうからです。アのYOUは「あなた」というよりも「お前」という感じです。そのためより柔らかい響きにするためYOUが省略された命令文ができたと考えられます。


    2.なぜ命令文には「主語」(YOU)が省略されているのか

→YOUをつけるとあまりに高圧的は響きとなってしまうため、それを和らげるためYOUを省略した命令文ができたため。


 主語(YOU)が省略された結果、文頭にくるのは動詞の原形となります。それによっていっそう話し手の「想像」が強調されるているようにも感じられます。

 以上のように、命令文においても「具体」と「抽象」の区別という英語の特徴を発見することができます。


【英語本】




大西泰斗 『英文法をこわす 感覚による再構築』 日本放送出版協会、2003年

 「受験英語」しか知らない人にとってはこの本は衝撃的だと思います。

 私にとってもこの本はとても印象的でした。今まで苦手だった「前置詞」「冠詞」などがやっと理解できたと思わせてくれる本でした。


 学校文法は、ネイティブがその語感を通して生み出す文を、機械仕掛けの別経路から生み出そうとする壮大な試みである。そしてその低い限界が明らかになった今、新しい文法体系が求められている。

 私の代案は「感覚の文法」である。機械仕掛けの限界を知り、別経路を断念し、ネイティブのもつ感覚を調査し、その生きた感覚を基に組み上げる体系である。突飛な考えではない。ことばが紡ぎ出される母なる感覚に回帰する、それだけのことだ。機械に跪くのをやめるということだ。「ネイティブはそうやってことばを使っているのだろうか。」という疑問に真摯に向き合う決意をするということだ。』(本書P14)


 私も大西先生のこの考え方に賛成です。

 大西先生と私のアプローチに違いは、大西先生が「感覚」に焦点をあてているのに対し、私は「具体と抽象の区別」という「思考形式」に焦点をあてている点だと思います。

 ただ、どちらのアプローチをとっても、結論は共通しているものがあります。特に英語の「過去形」に対する結論がほぼ同じである点には驚きました。

 大西泰斗(「ひろと」とよむ)先生の著作は非常に多くあり、それらからいろいろ勉強させていただきたいと思います。


2012年11月4日日曜日

【三単現のSとは何か】


 「三単現在のS」について考えます。

 英語には次のような不思議なルールがあります。


     主語が「三人称・単数形・現在形」(略して「三単現」)の場合

     → 動詞に「S」をつける

        He plays basketball every weekend.


 このルールは一体何なのでしょうか?

 当ブログではこのルールも、「具体」と「抽象」が形で区別されたもの、と考えます。

 前回の【なぜ you,he,she,it は小文字なのか】で次のことを考えました。

 
      I : 一人称代名詞

      you  :  二人称代名詞

      he, she, it  : 三人称代名詞 


      一人称 < 二人称 < 三人称  (人数の大小)

      (一人)    (複数)   (多数)


      人称代名詞の抽象度の違い

      I  >  you  >  he, she, it  (抽象度の高さ)


 上記のことを以下のように言いかえることができます。


      人称代名詞の具体度の違い

      I  <  you  <  he, she, it  (具体度の高さ)


 つまり、三人称代名詞は人称代名詞の中で最も「具体」の程度が高いのです。

 そして、三単元の中にある「単数形」と「現在形」も「具体」を表しています。単数形が具体を表すのは可算で冠詞ありだからです。


      三人称代名詞 : 「具体」を表す

      単数形 : 「具体」を表す

      現在形 : 「具体」を表す

      
 したがって、「三単現のS」は何かの答えは次のようになります。


     「三人称・単数形・現在形」(三単現)の場合、動詞に「S」をつける理由

     → 「具体」を表しているから
     

 以上のように英語には、「具体」と「抽象」を形で区別する、という特徴が備わっており、三単現のSもその特徴の現れであると考えられます。


【なぜ you,he,she,it は小文字なのか】


 人称代名詞 you, he, she, it について考えます。

 人称代名詞 「I 」(私)はいつでもどこでも「大文字」です。

 一方、「you, he, she, it 」は文頭に置かれる場合を除いていつでも「小文字」です。

 これはなぜなのでしょうか?

 このことは 【I (私)】2 で以下のように考えました。


    I を大文字にする理由 

    : 世界に1つしかなく、置き換えができない、特別な存在だから 

      (「抽象」を表す)

      I の抽象度 > 他の人称代名詞の抽象度


    「話し手」 =  I  : 英語にとって I は「神」のような特別な存在

                → I を大文字にする 

                = I の抽象度が他の人称代名詞よりも高い

 
 そこで今回は、「他の人称代名詞の抽象度」について考えたいと思います。

 まず、you はなぜ he, she, it よりも抽象度が高いのでしょうか?


      I : 一人称代名詞

      you  :  二人称代名詞

      he, she, it  : 三人称代名詞


 I  から考えて、目の前にいる存在が you であり、第三者というある程度 I から距離がある存在が he, she です。そして、I  からの距離が離れていればいるほど、それだけ「置き換え」ができる存在となります。


      一人称 > 二人称 > 三人称 

      (置き換えができない程度)


 この「置き換え」とは「入れ替えることができる人数」といっても同じことです。鳥瞰図的に会話の場面をとらえた場合、人称代名詞の表す人数の大小は次のようになります。

    
      一人称 < 二人称 < 三人称  (人数の大小)

      (一人)    (複数)   (多数)


 そして、「置き換えができない」ということは、特別な存在であるため「抽象度が高い」ことを表します。

  
      人称代名詞の抽象度の違い

      I  >  you  >  he, she, it  (抽象度の高さ)


 以上が「you はなぜ he, she よりも抽象度が高いのか」の理由となります。

 次に、「なぜ you, he, she は小文字なのか」の理由を考えます。

 これは、I  が世界に1つしかない置き換えのできない特別な存在であるのに対して、you, he, she は世界に複数あり置き換えができる存在であるため、I ほど特別な存在ではないから、ということになります。


      you, he, she, it を小文字にする理由 

      you, he, she, it  : 世界に複数あり置き換えが可能な存在

                 → I ほど特別な存在ではない

                 → 小文字にする (文頭以外は大文字にしない)


 結局、人称代名詞はそれぞれの抽象度の高さに応じて大文字なのか小文字なのかが決まるのです。

 最後に、「be動詞」について考えます。


      人称代名詞のペアとなるbe動詞

        I  =  am

        you  =  are

        he, she, it =  is


 このように、人称代名詞の種類に応じて使用される be動詞 も異なります。

 このことも、人称代名詞の抽象度の違いが関係していると考えられます。(もちろん音韻の影響もあると思います。)