2012年10月27日土曜日

【英語本】



 
 唐須教光編 『開放系言語学への招待』 慶應義塾大学出版会、2008年

 認知言語学的な「英語の視点」の参考文献として、当ブログでも利用させていただいております。

 編算者は唐須先生となっていますが、実際には慶應の井上逸兵先生がコーディネートされています。

 唐須先生が慶應を退官されるのを機に、新しい言語学への提言として編まれた本です。

 「新しい」とは、生成文法に代表される従来の静的な「閉じた」言語学ではなく、社会言語学や認知言語学などに代表される動的な「開いた」言語学のことを意味しています。

 このブログを機に、再度読んでみようと思います。


【英語の視点と日本語の視点】


 「英語の視点」と「日本語の視点」の違いについて考えます。


 
 唐須教光編 『開放系言語学への招待』 慶應義塾大学出版会、2008年

 上記著作の P198 多々良直弘 『第10章 スポーツ・コメンタリ― -メディアが創るスポーツという物語』 から以下引用します。


本多(2005:154-155)も「英語は状況を外部から見て表現する傾向が比較的強いのに対して、日本語は状況の中にいて、その現場から見えたままを表現する傾向が強い」と述べている。・・・つまり英語では神の視点から事態を表現するためにアメリカ(英語)型の報道では客観的情報を提供し、日本語では認知の主体である話者が「事態の中に自らの身を置き、その事態の当事者として体験的に事態把握をする(池上 2006)ため記者の主観的、体験的な情報を提供するという特徴が生れてきていると言えるだろう。


 上記をまとめると以下のようになります。


    英語の視点 : 神の視点(「鳥瞰図的視点」)

    日本語の視点 : 「埋没的視点」


 英語の「鳥瞰図的視点」とは鳥の視点です。上空から地上の全体像を見渡すような視点です。

 一方、日本語の「埋没的視点」とは、例えば、電車の車掌さんの視点を思い浮かべてみてください。電車の進行方向の一番前の車両に乗っている車掌さんの視点は、自分の前方は見えていますが、自分の後ろだけでなく自分自身さえも見えていません。つまり、目の前のものしか見えていないという視点なのです。

 この視点の違いから以下の特徴がでてくると考えられます。


   英語の視点 : 「鳥瞰図的視点」 

              → 主観的視点 + 客観的視点

              → 「具体」だけでなく「抽象」もみえる

              → 「具体」と「抽象」の区別


   日本語の視点 : 「埋没的視点」 

              → 主観的視点のみ

              → 目の前の「具体」しかみえていない


 日本人は「抽象思考」があまり得意ではないのではないかというのが私の実感ですが、これも上記の日本語の視点からくるものではないかと考えられます。

 また、日本語はよく主語を省略しますが、これも日本語の埋没的視点・主観的視点の結果として、自分自身が見えていない、つまり、自分を客観的に見えていないため、自分自身をあらわすことを省略してしまうのではないかと考えられます。


   日本語の視点 : 「埋没的視点」 

              → 主観的視点のみ

              → 目の前の「具体」だけがみえる

              → 自分自身が客観的にみえていない

              → 主語の省略


 一方、一般的に英語圏の人は論理(ロジック)を重視し、一般的な日本人と比べて「抽象思考」が得意であると思われます。これも上記の英語の視点からくるものではないかと考えられます。

 また、英語は、命令文を除いて、主語を省略することはほとんどありません。これも、英語の鳥瞰図的視点の結果として、自分自身が客観的にみえているためであると考えられます。


    英語の視点 : 「鳥瞰図的視点」 

              → 主観的視点 + 客観的視点

              → 「具体」だけでなく「抽象」もみえる

              → 自分自身も客観的にみえている

              → 主語を省略しない


 以上は、あくまでそういう傾向があるという話ですが、このような視点は認知言語学が解き明かしたすぐれた知見ではないかと思います。


【二重の視点】


 英語の「二重の視点」について考えます。


    英語の視点 : 「ニ重」の視点 

             = 「英語自体の視点」 + 「話し手の視点」

             = 鳥瞰図的視点 + 話し手自身の視点

             = 客観的視点 + 主観的視点

             = 「抽象」 + 「具体」


 この英語の「二重」の視点と、「具体」と「抽象」との関係は以下のようになると考えています。


    英語自体の視点(鳥瞰図的視点)

    → 「具体」だけでなく「抽象」もみえる

    → 「具体」と「抽象」の区別


    話し手の視点

    → 英語自体の視点でみえた「具体」と「抽象」の区別を反映


 「抽象」もみえる、というのがポイントです。肉眼では見えない「抽象」がみえるからこそ、それを表現できるのです。

 頭の中のヴァーチャルな世界、つまり、「あっちの世界」をみることができるというのは、まさに「神の視点」とよぶべきものかなのもしれません。

 英語の特徴である「具体」と「抽象」の区別は、上記のような構造によって生みだされる特徴であると、当ブログでは考えます。

 英語は、日本語と違って、なぜ時間についての表現が多様なのか、なぜ冠詞がついたりつかなかったり、また、数えられたり数えられなかったりするのか。

 これらは、「二重の視点」から生みだされる「具体と抽象の区別」によるものだったのです。


2012年10月22日月曜日

【英語の視点】


 「英語の視点」について考えます。

 【 I (私)】(なぜ I は大文字なのか) では次のような結論となりました。

 
      英語の視点 : 「神の視点」 (鳥瞰図的視点)

               → 「具体」と「抽象」を形で区別するという特徴


      「話し手」と「英語」の関係 : 支配と被支配の関係

                       → 英語にとって話し手は「神」のような存在


       「話し手」 =  I  : 英語にとって I は「神」のような特別な存在

                 → I を大文字にする 

                 = I の抽象度が他の人称代名詞よりも高い


 まとめると、「話し手( =私=I)は特別な存在だから I を大文字にする」という結論でした。

 ところが、その結論自体はそれでいいとしても、別に「英語の視点」(鳥瞰図的視点)というポイントがなくても、この結論は得られるのではないか、とも言えてしまいます。

 そこで、もう一度「英語の視点」について以下のように再構成してみたいと思います。


     英語の視点 : 「ニ重」の視点 

              = 「英語自体の視点」 + 「話し手の視点」

              = 鳥瞰図的視点 + 話し手自身の視点

              = 客観的視点 + 主観的視点

              *話し手=私=I


 英語を母国語とする人が英語を話す時、無意識的に、まず鳥瞰図的に全体を上空から見渡すような視点をもち、それに加えて、話し手である私自身の視点という「二重の視点」を持っています。

 そして、この「二重の視点」は、まず全体を見渡すという英語自体がもつ「客観的視点」があり、次に、私という話し手自身の「主観的視点」がそれに重なるという二重構造となっています。

 以上の「英語の二重の視点」から、次のことを導くことができます


   1.最終的に私という話し手の視点が必要となるため、英語にとって話し手はやはり特別な存在となる。→ I を大文字にする

   2.英語の特徴である「具体」と「抽象」の区別は、この英語の「二重の視点」の結果でてくる特徴である。


 特に2は、本ブログの主題ですので以下のようにまとめたいと思います。


    英語の視点 : 「ニ重」の視点 

             = 「英語自体の視点」 + 「話し手の視点」

             = 鳥瞰図的視点 + 話し手自身の視点

             = 客観的視点 + 主観的視点

             = 「抽象」 + 「具体」


2012年10月21日日曜日

【英語本】



山口俊治 『コンプリート 高校総合英語』 桐原書店、1989年

 私が高校時代に使用していた参考書です。

 わかりやすい構成で完結に書かれているだけでなく、細かい点にも配慮がされており、高校英語を整理するのにおすすめの本だと思います。

 当ブログでも参考文献として利用させていただいております。

 山口先生といえば『実況中継シリーズ』が有名ですが、このコンプリートも代表作ではないかと思います。



【 I (私)】2


 I (私)は大文字にするのに、you, he, sheはなぜ大文字にしないのでしょうか?

 つまり、なぜ I の抽象度が他の人称代名詞よりも高いのでしょうか?

 この問いに答えるために、英語の視点についての認知言語学の知見を手がかりにします。


 
 唐須教光編 『開放系言語学への招待』 慶應義塾大学出版会、2008年

 上記著作の P198 多々良直弘 『第10章 スポーツ・コメンタリ― -メディアが創るスポーツという物語』 から以下引用します。


 認知言語学の分野ではある事態を言語化する際に、認知の主体が事態をどのように把握するかにより、言語表現に差異が生じることが論じられている。池上(2006)は・・・英語ではオフステージからの定点的視点 (God eye’s view) で語られる傾向にあるという。・・・つまり英語では神の視点から事態を表現するためにアメリカ(英語)型の報道では客観情報を提供し・・・


 要は、英語という言語は、「神の視点」から事態を表現している言語である、ということです。

 「神の視点」とは、あえてわかりやすくいってしまうと、鳥の視点でしょう。上空から地上を鳥瞰図的にみている視点です。

 重要なことは、「神の視点」で事態を表現するからこそ、英語は、「具体」と「抽象」を形で区別するという特徴をもつことになった、ということです。

 なぜなら、このような大きな鳥瞰図的な視点がなければ、主観と客観の区別、現実と想像の区別などはできないであろうからです。


    英語の視点 : 「神の視点」 (鳥瞰図的視点)

               → 「具体」と「抽象」を形で区別するという特徴


 さて、この神の視点という英語の視点をふまえ、「なぜI (私)は大文字にするのに、you, he, sheはなぜ大文字にしないのか」を考えます。

 そのためには、もう一つの視点を導入する必要があります。

 それは、英語からみた「話し手」という視点です。

 確かに、英語の構造は神の視点のような鳥瞰図的視座にもとづいてつくられていますが、その英語を使用しているのは、「話し手」です。

 つまり、神の視点というのは英語の構造の問題であり、それとは別に、英語の使用の問題があるのです。

 それをふまえて「話し手」と「英語」の関係を考えると、その関係が支配と被支配の関係であることがわかります。話し手は英語を使用しますが、英語は話し手によって使用されるのです。

 したがって、「話し手」は「英語」にとって「神」のような存在であるといえるのです。


    「話し手」と「英語」の関係 : 支配と被支配の関係

                       → 英語にとって話し手は「神」のような存在

 
 以上をふまえて考えると、英語にとって話し手である I は神のような特別な存在であるのです。

 このことが、「なぜI (私)は大文字にするのに、you, he, sheはなぜ大文字にしないのか」の答えであり、同時に、「なぜ I の抽象度が他の人称代名詞よりも高いのか」の答えとなるのです。


    「話し手」 =  I  : 英語にとって I は「神」のような特別な存在

                → I を大文字にする 

                = I の抽象度が他の人称代名詞よりも高い


 次に、「英語の視点」についてさらに考えたいと思います。


【 I (私) 】1


 人称代名詞の中で、I だけがなぜ大文字なのでしょうか?

 人称代名詞には次にものがあります。


    人称代名詞
 
    主格 :  I , you, he, she, it, we, you, they  


 この中でいつも大文字なのは I だけです。

 この理由は固有名詞と同じであると考えられます。


      I を大文字にする理由 

    : 世界に1つしかなく、置き換えができない、特別な存在だから 

      (「抽象」を表す)


 
    I の抽象度 > 他の人称代名詞の抽象度



    I の「大文字」が表わしているもの

    : 「抽象」の度合いが、他の人称代名詞よりも高いことを表している

      (抽象度の高さを表している)


 では、逆になぜ you, he, she, it, we, you, they  は大文字にならないのでしょうか?

 まず、複数形である we, you, they は可算であり(冠詞はつきませんが)、「具体」を表しているから、「抽象」を表す大文字にはならないのはわかります。

 しかし、単数形である you, he, she は、「世界で1つしかない」という点では I と同じであるように思われます。

 この「you, he, sheはなぜ大文字にしないのか」という問いは、「なぜ I の抽象度が他の人称代名詞よりも高いのか」という問いと同じものです。

 この問いを答えるために「認知言語学」の知見を活用したいと思います。

 それは、「英語の視点」についての知見です。

 この知見は、本ブログのテーマである『「具体」と「抽象」の形による区別』と密接に関係していますので、詳しく見ていきたいと思います。


【大文字】


 「大文字」ではじまる名詞の「大文字」は何を表しているのでしょうか?

 英語の表記はアルファベットですが、アルファベットには大文字と小文字があります。

 そして、英語には大文字ではじまる名詞と、小文字ではじまる名詞があります。この違いは何を表しているのでしょうか?

 大文字ではじまる名詞には次のようなものがあります。


        Tokyo 「東京」 (地名)

        Tom 「トム」 (人名)

        Mars  「火星」


 要は、固有名詞です。

 固有名詞の「固有」とは、「1つしかないもの」という意味です。つまり、「世界で1つしかないもの」を大文字で書きはじめる名詞のことです。

 そして、おもしろいことに、この「世界で1つしかないもの」は、英語では「抽象」としてとらえられているのです。なぜなら、固有名詞は「不可算・無冠詞」だからです。

    
    固有名詞(世界に1つしかないもの) :  「抽象」を表わす 


 ところで、1つしかないものは、1つはあるわけであるから、可算、つまり、「具体」ではないかと思われるかもしれませんが、そうではありません。

 数えられる(可算である)ものは、それが複数あることを前提としています。したがって、複数ではなく、1つしかないものは「数えることができない」という扱いとなり、不可算、つまり「抽象」となるのです。無冠詞にしているのも同じ理由からです。

 では、なぜ大文字ではじめるのでしょうか?

 それは、やはり「世界に1つしかないもの」(抽象)を他の「世界にたくさんあるもの」(具体・抽象)から区別するためであると考えられます。

 「世界に1つしかないもの」は、他のものに置き換えることができないわけですから、特別な存在です。そのユニークさを表すために、大文字を使用していると思われます。


      固有名詞を大文字ではじめる理由 

   : 世界に1つしかなく、置き換えができない特別な存在だから 

     (「抽象」を表す)


 この「抽象」を表すという点がポイントです。というのも、固有名詞の抽象度と、他の小文字の名詞の抽象度を比較した場合、前者のほうが高いという特徴があるからです。


    固有名詞の抽象度 > 他の名詞の抽象度


 この理由は、「世界に1つかないもの」のほうが、「世界にたくさんあるもの」よりも、より不可算・無冠詞の扱いとなるため、より抽象度が高くなるからです。

 したがって、冒頭の問い、「大文字」ではじまる名詞の「大文字」が何を表わしているか、の答えは以下のようになります。


   「大文字」ではじまる名詞(固有名詞)の「大文字」が表わしているもの

   : 「抽象」の度合いが、他の名詞よりも高いことを表している

     (抽象度の高さを表している)


 固有名詞の大文字にも、「抽象」がとる「形」というポイントが隠されています。

 そして、この大文字には、単に「具体」と「抽象」の形による区別、ということだけではなく、「抽象の度合い」の形による区別、というポイントがあることが特徴です。

 最後に、大文字にする名詞の他の代表的な例として、 I (私) があります。

 次に、この  I (私) について考えていきます。


2012年10月20日土曜日

【自動詞と他動詞】


 「自動詞」と「他動詞」について考えます。

 自動詞には完全自動詞・不完全自動詞があります。

 他動詞には完全他動詞・不完全他動詞があります。

 これらを「拡張」という視点で整理していきます。


    1. He runs.    (完全自動詞)


 1の文はもっともシンプルな構造(主語と動詞のみ)からなっている第一文型( S + V)の文です。この文の動詞は「完全自動詞」です。


    完全自動詞 : 他の語(目的語・補語)に影響力を及ぼさない動詞

               = 拡張されていない動詞 (拡張なし)


    2.  He feels lonely.   (不完全自動詞)


 2の文は、主語と動詞と補語(C) から成る第二文型(S + V + C)の文です。この文の動詞は「不完全自動詞」です。


    不完全自動詞 : 1つの補語に影響力を及ぼす動詞

                = 拡張されている動詞 (1次拡張)


    3. He runs a restaurant.  (完全他動詞)


 3の文は、主語と動詞と目的語(O) から成る第三文型(S + V + O)の文です。この文の動詞は「完全他動詞」です。ちなみにこの run は「~を経営する」という意味です。


    完全他動詞 : 1つの目的語に影響力を及ぼす動詞

               = 拡張されている動詞 (1次拡張)


    4.  I gave her a present. (完全他動詞)


 4の文は、主語と動詞と目的語(O) と目的語(O)から成る第四文型(S + V + O + O)の文です。この文の動詞も「完全他動詞」ですが、第三文型の完全他動詞とは拡張という点では異なるものです。


    完全他動詞 : 2つの目的語に影響力を及ぼす動詞

               = 拡張されている動詞 (2次拡張)


    5.  I call him Tom. (不完全他動詞)


 5の文は、主語と動詞と目的語(O) と補語(C)から成る第五文型(S + V + O + C)の文です。この文の動詞は「不完全他動詞」です。


    完全他動詞 : 1つの目的語と1つの補語に影響力を及ぼす動詞

               = 拡張されている動詞 (2次拡張)

 
 以上をまとめると次のようになります。

   
    第一文型 : 完全自動詞 「拡張なし」

    ↓

    第二文型 : 不完全他動詞 「1次拡張」 (1次抽象化)

    ↓

    第三文型 : 完全他動詞 「1次拡張」 (1次抽象化)

    ↓

    第四文型 : 完全他動詞 「2次拡張」 (2次抽象化)

    ↓

    第五文型 : 不完全他動詞 「2次拡張」 (2次抽象化)


 要は、文型は、動詞の拡張の度合いを表しているのです。そして、動詞は拡張という抽象化の方向へ向かう傾向がある、とうことです。


【gutch】


 思考実験をしてみます。

 新しい英単語をつくってみます。

 「gutch」(ガッチ)という単語です。日本語にあるガッツやガチンコのもじりです。

 
     gutch

     品詞 : 名詞

     意味 : ガチであること。ガチンコであること。


 まず、話し手が gutch を「具体」としてとらえているとします。


     He have a good gutch in his mind.   (具体)

     「彼はすごいガチを胸にひめている。」

     *「具体」なので可算・冠詞あり


 次に、話し手が gutch を「抽象」としてとらえているとします。


     He is full of gutch in his mind.  (抽象)

     「彼はガチで満ちあふれている。」

     *「抽象」なので不可算・冠詞なし


 そして、この名詞 gutch が「拡張」され、形容詞・副詞という新たな機能を獲得したとします。


          gutchy

          品詞 : 形容詞

          意味 : ガチな、ガチンコな、ガチに満ちた

          比較級 / 最上級 : gutcher / gutchest

           He is so gutchy that no one can beat him. (抽象)

           「彼はあまりにガチに満ちているので、誰も彼にかなわない。」


          gutchly

          品詞 : 副詞

          意味 : ガチに、ガチンコに

          比較級 / 最上級 : more gutchly / most guchly

           He made approaches to her very gutchly. (抽象)

           「彼はとてもガチに彼女にアプローチした。」


 また、gutch が「拡張され」、動詞という新たな機能を獲得したとします。


     gutch  

     品詞 : 動詞 (自動詞)

     意味 : ガチる

     過去形/過去分詞形 : gutched / gutched

     文型 : 第一文型 (S + V)、 第二文型 (S + V + C)

      He guthes very  well. (具体)(動詞の現在形)(第一文型)

           「彼はとても上手にガチる。」(?)

            He gutched happy in the end. (抽象) (第二文型)

           「彼は最終的には幸せになった。」

    

           gutch  

           品詞 : 動詞 (他動詞)

           意味 : ~をガチで取り組む。~をガチンコでやる。

           文型 : 第三文型 (S + V + O)

           He guches everything. (具体)(動詞の現在形)

           「彼はすべてのことにガチで取り組む。)

           He tried to gutch her.  (抽象)(動詞の原形)

           「彼は彼女にガチで挑もうと努力した。」


 さらに、他動詞 gutch が「拡張」されて、次のような新たな機能を獲得したとします。


           gutch  

           品詞 : 動詞 (他動詞)

           意味 : ~をガチで取り組む。~をガチンコでやる。

           文型 : 第四文型 (S + V + O + O),  第五文型 (S + V + O + C)

            He gutched her a large fortune. (抽象) (第四文型)

            「彼はガチで彼女に莫大な遺産を残した。」

             He gutched her his wife.  (抽象) (第五文型)
    
             「彼はガチで彼女を自分の妻にした。」


 最後に、gutch を使った慣用表現ができたとします。


      gutch to 動詞の原形 ~ 「ガチで~しよううとする。」

      gutch oneself to 動詞の原形 ~ 「~に没頭する」

      gutch one’s way to 動詞の原形 ~ 「~しようとひたすら突き進む。」

      have gutched to 動詞の原形 ~ 「必ず~しなければならない。」


 以上はすべて思考実験です。実在はしません。

 だんだん get の強力版みないな単語になってきてしまいました。 

 では、この実験をまとめると、次のことがわかると思われます。


    ・ある単語は使用頻度が高くなると拡張されていく可能性がある

    ・拡張は、機能の拡大をともなう

    ・拡張は、具体→抽象 という方向へ進んでいく

 
 拡張がどのようなものであるかがイメージできたのではないかと思います。


【be・to構文】


 「be・to構文」(ビートゥー構文)について考えます。


   不定詞(to) + 動詞の原形 = 「独立抽象句」 → 「何でもあり」


 このことについては【不定詞】3のところでやりました。


   不定詞+動詞の原形

   To play basketball is fun for me.     (~すること)(名詞的用法)

   I have a promise to play basketball.    (~するための)(形容詞的用法)

   I went to the park to play basketball.   (~するために)(副詞的用法)

   I will (to) play basketball tomorrow.  (~する)(原形不定詞)(動詞的用法) 


 さて、「be・to構文」は不定詞の「動詞的用法」に含まれると思われます。


    「be・to構文」

    be動詞 + to不定詞 + 動詞の原形

    → 文脈に応じていろいろな意味となる  (何でもあり)


 この「文脈に応じていろいろな意味となる」とは、具体的には、「予定」・「義務」・「可能」などのことです。


  1. He is to arrive at Tokyo this morining.   (予定)(~することになっている)

  2. He is to pay back the money within today. (義務)(~しなければならない)

  3. He was nowhere to be found. (可能)(~できない)


 上記はひとつの解釈例です。というのも、1は予定で解釈してありますが、義務(~しなければならない)と解釈しても、文脈上問題なければ、それでいいのです。また、2も、義務で解釈してありますが、文脈上問題なければ、予定(~することになっている)と解釈してもいいのです。

 いわば、be・to構文は「何でもあり」なのです。これは、「to不定詞+動詞の原形」というコンビが、もともとの動詞の現在形という「具体」から拡張されて、かなりの「抽象」度を獲得したからなのです。これを当ブログでは「独立抽象句」とよんでいます。

 最後にbe・to構文の他の例文をあげておきます。


   He was never to come back.  (運命)

      「彼は二度と帰ってこなかった。」


   If you are to pass the examination  you must study harder. (意図)

      「もし試験に合格しようと思うなら、もっと懸命に勉強しなければならない。」


【相対的】


 「具体」と「抽象」という概念は、「相対的」なものです。


    「具体」・「抽象」 : 相対的


 相対的である、ということは、絶対的ではない、ということです。

 つまり、これは具体、あれは抽象とすでに決まっているものではなく、あくまで話し手がそれを具体ととらえているのか、抽象ととらえているのかによって決まってくる、というものです。

 そして、重要なことは、具体には具体固有の「形」が、抽象には抽象固有の「形」がある、ということです。

 「形」は「機能」・「位置」・「意味」と結びついています。4つのうちどれかが変われば、他のものも連動して変わります。

 「拡張」という概念で表わしたのは、ある語彙が新たにこれらの4つの要素を獲得した、ということです。

 そして、「拡張」の多くは「抽象」化の方向性をもっています。


2012年10月19日金曜日

【that節】


 「that節」について考えます。

 「節」とは文のことです。文には主語と動詞が含まれ、1つのかたまりを作ります。


   I know that the earth is round.   

   *下線部分がthat節です。


 「that節」とは、thatの機能が拡張された結果、「that + 文」という1つのかたまりとなって、ほとんど「何でもあり」の機能をはたす、というものです。

 なんだか「不定詞+動詞の原形」の「何でもあり」に似ています。違いは、「不定詞+動詞の原形」が「句」であるのに対して、that節は「節」であるという点です。前者を「独立抽象句」とよびましたので、後者を「独立抽象節」とよびます。

   
    「何でもあり」の機能をはたす1つのかたまり

    ・「不定詞+動詞の原形」 (独立抽象句)

    ・「that節」  (独立抽象節)

   
 では、that節をくわしく見ていきましょう。

 もともと指示代名詞 であったthat (あれ)が「拡張」された結果、さまざまな(何でもありの)機能を獲得することができましたが、その「機能」とは以下のとおりです。


    指示代名詞 that 「具体」 →  that節 「抽象」

    that節の機能

    1.名詞的用法 

    2.形容詞的用法

    3.副詞的用法 


 それぞれを機能を具体的にみていきます。

 まず、1の名詞的用法は、要は、名詞のおけるところにthat節がおけるようになった、というものです。文レベルのかたまりを1つの名詞(名詞節)として扱えるようになりました。


    that節の機能

    1.名詞的用法 = 名詞節
               
      ・主語: That the earth is round is true.

            = It is true that the earth is round.

      ・目的語: I know that the earth is round.

      ・補語: The truce is that the earth is round.

      ・前置詞の後: She takes after her mother in that she likes science.

               *前置詞の後には名詞がきます


 次に、2の形容詞的用法は、要は、形容詞のおけるところにthat節がおけるようになった、というものです。文レベルのかたまりを1つの形容詞(形容詞節)として扱えるようになりました。


    that節の機能

    2.形容詞的用法 = 形容詞節

      ・関係代名詞: He is the boy that is playing basketball over there.

      ・関係副詞: This is the place (that) he was born twenty years ago.

      ・同格: The fact that the earth is round is true.

           「地球が丸いという事実は正しい。」


 形容詞は名詞を説明(修飾)します。that節はかたまりが大きい(長い)ため、説明する名詞の前ではなく、後におきます。重要なことは、形容詞的用法のthat節は、名詞を後ろから説明する、ということです。

 最後に、3の副詞的用法は、要は、副詞のおけるところにthat節がおけるようになった、というものです。文レベルのかたまりを1つの副詞(副詞節)として扱えるようになりました。


    that節の機能

    3.副詞的用法 = 副詞節 

       ・so ・・・ that S + V ~ 「とても・・・なので~」

               He speaks so fast that I couldn’t understand what he said.

       ・such ・・・ that S + V ~ 「とても・・・なので~」

               This is such an interesting story that I will never forget it.

       ・now that ~ 「今ではもう~だから」

                I like it better now that I am used to it.

        ・in that ~ 「~という点で」*

       She takes after her mother in that she likes science.

  
 *名詞的用法ででてきた前置詞の後のthat節ですが、「in that ~」という1つのかたまりでとらえれば、副詞的用法となります。

 上記はあくまで一例です。結果や原因などを表しています。

 見方を変えれば、副詞的用法のthat節は、接続詞のはたらきをしています。

 ちなみに、副詞とは何かというと、動詞・文・形容詞・副詞などを説明(修飾)するものです。わかりやすくいってしまうと、形容詞が名詞を説明するのに対して、副詞は名詞以外のものを説明するのです。

 以上がthat節についてのまとめです。重要なことは、that節を1つのかたまりとして認識し、そしてそれがどのような機能を果たしているかを文脈に応じてとらえることです。